2011年4月14日木曜日

ファゴットとバソンの違い

 先日、定演の話をアップした時にご質問をいただきましたのでまとめてみました。
 
 まず説明しなければいけないのは、小人が吹いているこの楽器はヨーロッパの言語では色んな呼び名がある、という事です。国により「ファゴット(伊/独/西/蘭など)」、「バスーン(英)」、「バン(仏)」などと呼ばれますが、これらは全て同じ楽器を指しています(言語により呼び名が違うというのは別に特別な事ではなく、チェンバロやティンパニ、ヴィオラ、大太鼓なんかにも「色んな呼び名」が存在します)。
 
 ヨーロッパの楽器、特に管楽器には先人達の創意工夫の結果としていろいろなシステムが存在したんですが、運動性・音色その他様々な理由により2~3種類に淘汰されてしまっている場合が多いですね。有名なところではクラリネットがベーム式とエーラー式、オーボエがコンセルヴァトワール式とツーレーガー式、サムプレート式に淘汰されています。フルートは残念ながらベーム式以外は廃れてしまい選択肢がありません。
 
 小人の吹くこの楽器についてもヘッケル式とビュッフェ式という2種類が現存します。それぞれ代表的なメーカー名をとった呼び名なんですが、それらの由来する国名をとってドイツ式・フランス式と呼ばれる事の方が多いですね(それが誤解の一因ともなってるんですが…)。これら2種類のシステムは多少違った性格を持っていますが、作・編曲上や演奏上は同じ楽器として扱われます。
 
左がヘッケル(ドイツ)式、右がビュッフェ(フランス)式
 
 日本では一般的な呼び名として「ファゴット」「バスーン」の両方が使われています。オケではドイツ系のレパートリーや出版社が多いので「ファゴット(独)」、吹奏楽ではアメリカ系のレパートリーや出版社が多いので「バスーン(英)」と書かれる・呼ばれる事が多いようです。

 しかしながら特にフランス式の楽器の事を言いたい場合にフランス語で「バン」と呼び、それに対してドイツ式の楽器をドイツ語で「ファゴット」と呼び分ける場合が多いんですね。つまり…

  ①楽器の総称としては 「ファゴット」=「バスーン」=「バン」
 
  ②特定のタイプを指す単語としては 「ファゴット」≠「バン」
    (ここでは普通「バスーン」は使いません)

 楽譜に書かれている「Fg」は普通は楽器の総称であり、どちらのシステムで吹いても構いません。イタリアやドイツの出版社は「ファゴット」(綴りは微妙に違いますが)と書きますし、フランスの出版社なら「バン」と書きますが、それらは単に自国の言語で表記しているだけで特定のシステムを指したものではありません。なのでファゴットフェスティバルにバンを持って行っても、つまみ出されたりはしません(笑)
 
 更に注意が必要なのは、これら2つのシステムは共に19世紀の前半にクラシカルな楽器を改良してできたもので、世の中に普及したのは19世紀後半からだということなんです。つまりヴィヴァルディ・モーツァルト・ベートーベン・ベルリオーズなどの時代にはまだどちらのシステムも普及していません。なので巷でよく言われる「フランス式は音量が小さいのでベルリオーズは2本重ねて使った」という主張は、時系列を知らない人のトンデモ説でしかありません(何故か信じてる人多いですけどね)。
 同様に「フランス式でベートーベンを吹くのは違和感がある」という意見の方は「ドイツ式でベートーベンを吹くのも違和感がある。ピリオド楽器で演るべきだ!」と言わなければ片手落ちになってしまいますね。
 
 
 
…と、ここまではそんなに難しい話ではないのですが…
 
 
 面倒なのは英語の「バスーン」とフランス語の「バン」の発音が似ているので、ごっちゃになってしまう人が少なからず居るという事です。綴りも英語が「bassoon」なのに対してフランス語は「basson(“o”が一個少ない!)」と、まるで「勘違いしてくれ」と言わんばかりです(笑)
 
 そのせいで「ファゴットとバンは違うものです」と書こうとして「ファゴットとバスーンは違うものです」なんて書いてしまったり、「バンの演奏」としてYouTubeの「Bassoon」と書かれた動画(ドイツ式によるもの)を紹介したりしてしまう訳ですね。ヤフー知恵袋やTwitterなどでバスーンとバンを勘違いした投稿を時々見かけます。
 
 

Twitterより
全員ファゴットですやん…

Yahoo!知恵袋「バスーンとファゴットは同じ楽器でしょうか」より
ンの事を言おうとしてバスーンと書いてしまってますね。
ネタ元はおそらくウィキペディア&「のだめ」かと…(笑)

Twitterより
完全に勘違いしてますね…

 
 のだめやwikiの断片的な情報だけで現物も見た事無い人に限って「全くの別物」とか「一緒にするな!」などと、したり顔で言いがちなので注意が必要です。
 
 まあ自分から「バンでござい」と言わない限りほとんどの人はドイツ式とフランス式の違いなんて判んないので、小人は普段「ファゴット(伊)です」と言うようにしています。相手がファゴ吹きでなければほぼバレる事はありません(笑)
 
 

3 件のコメント:

けん・バーン☆ さんのコメント...

ありがとうございます(・∀・)

なるほど~
またひとつ勉強になりました!!

Tam さんのコメント...

あら、記事変えましたか?

昨晩テレビで放映されていた映画のだめで、
「ドイツ式ファゴット」と「フランス式バソン」を説明していましたね。
ただ「バスーン」という単語は出てこなかったのでまた誤解を生みそうですが。

いずれにせよ、知名度はまだまだ低いということでしょうか・・・
(^^;

大管小人 さんのコメント...

Tamさん、いらっしゃいませ!

Bloggerって図版をたくさん入れると書式が崩れるクセがありまして…せっかく気合入れて書いたのに、アップしたとたんに改行が消えて意味通じなくなって…今の記事は第3稿です。
 
のだめのお陰でメジャーになったフランス式バソンですが、逆に『全く違うもの』と強調され過ぎたのが少し残念です。実際に見た事無い人がほとんどなので、ポール君にそう言われるとそうだと思っちゃいますよね?(笑)

更にTamさんもご指摘のようにフランス式「バソン」は一般名称「バスーン」と混同され易いので、『ファゴットとバスーンは似て非なる楽器です』といった誤解の原因になると思います。

まあ実機を持っている者の使命として、せいぜい舞台でお披露目したいと思います。