『音程の悪い楽器は無い。音程の悪い奏者が居るだけだ』
誰の言葉かは忘れましたが、小人がいつも肝に銘じている言葉です。
吹き手側からすれば「音程の取り易い楽器/取りにくい楽器」はあります。しかしその楽器を選んだ事も含め、聴き手側に対しては吹き手が全責任を負わなければなりません。
とは言え、ファゴットからバソンに持ち替えると途端に音程が崩壊します。難しいものは難しいんです(涙)。どうしてこんなにも下手クソになるのか、一応言い訳させて下さい…
低音域の運指比較 (音名は英語表記) |
これは低音域C-Bの運指の比較表。中央列がバソン、右列がファゴットです(参考のため左列にバロック・ファゴットを入れてみました)。キーか指穴かの違いはありますが、低音域の運指は3者共ほぼ同じなことが見て取れます。
管楽器では一般的に指を1つずつ開けていくことで音階になってくれれば楽なんですが、そうならない場合に何かキーを押したり指穴を塞いだりしてピッチを補正します。上図ではバロック・ファゴットのBに於けるG#キーがそれにあたります(赤色で表示)。
中音域の運指比較 (赤色の補正運指に注目!) |
さて、これが中音域になると話が変わってきます。バソンはドレミファソラシドの8つの音の内、なんと4つの音でこの補正が発生します(赤色の部分)。バソンしか知らない人なら「そんなもんだ」かもしれませんが、ファゴットや他の木管楽器を知っている人間にすれば「ハ長調のクセに何でこんなややこしいねん?」となってしまう訳です。
しかもこれが音程の悪い個体に対する救済策などではなく、教則本に載っているごくごく標準的な運指だというから困ったモンです!バソンの運指が煩雑で難しいと言われる所以です。
そしてこの標準運指をちゃんと守って吹いてる分にはバソンの音程も決して悪いものではないんですが、ちょっと早いパッセージ・難しい音型などになると元々運指がややこしい分すぐに指が追っつかなくなります。そんな時には補正なしで吹かざるを得ないんですが、これはアラール師の教則本にも「省略運指(simplified fingerings)」として載っている、ちゃんとした(?)逃げ方(テクニック)なんです(M.Allard:"Methode de basson"p.24-25)。
省略運指とその適用例 (×の指を省略) |
「(省略運指を使う時も)正規運指と同様の音を出すように注意する事」と書かれていますが、小人のような凡人がやると当然グダグダの音程になってしまう訳で…(以下、略)
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アントニー・ベインズ師は『木管楽器とその歴史』の中で「2種類の楽器を比較してみると、運指法からはどちらが決定的にまさっているということはできない。」 と書いていますが、圧倒的にファゴットの方が簡単だと思いますよ。その証拠にバソンを練習したあとにファゴットを吹くとスゴく指が回るんですよね~(笑)